楽しみ、楽しませ、ほんのちょっと楽になる

Vol.17本道佳子マネージャー日記

Vol.17本道佳子マネージャー日記 本道さんが見ているもの

2015.04.16

それは以前、シンガポールに行ったときのこと。
 
大勢の人が行き交う繁華街の地下道を歩いていたときに、本道さんがポツリと言いました。
 
「結局、人ってみんな同じですよね」
 
あまりにも唐突に言われたその言葉の意味を、私はすぐには理解できず。
もう少し詳しく聞いてみると、こんな答えが返ってきました。
 
「世の中には本当にたくさん人がいるけど、私には、その人のなかに『どれだけの愛があるか』しか見えないんですよね。
その人のなかの愛の比重っていうんですかね。
 
だから、その人がどこの国の人だとか、どんな肌の色の人だとか関係なく、人ってみんな同じだなぁって思うんです。」
 
 
これだけ聞くと、少し不思議な話に聞こえるかもしれませんけどね。
でも、私にとって、とても新鮮であり衝撃的な言葉でした。
 
どこの国に生まれたとか、どんな肌の色だとか、身長が高いとか低いとか、性別とか年齢とか。
どんな職業とか、どんな家に住んでいるとか、どれだけの財産があるかとか。
 
そういう外見やステータスといった、外側に見える持ち物ではなく、その人の内側にどういう質のものが、どれだけの量あるか。それだけが見える。
 
すなわち、本道さんが人を見るときの指標は、その一点のみ。
それが「人はみんな同じ」という言葉で、表現されたのでしょう。
 
本道さんは、ニューヨークのレストランで世界各国の人とはたらき、それぞれの国の人の性質や特徴といった国民性を十分に理解している。
その本道さんが行きついた結論が、そこかー! というのもまた、私にとって大きなポイントでした。
 
しかも、なんだかドキッとしますよね。
外見であれば、身なりとかに気を遣えば、それなりに装うことができるかもしれない。でも、自分のなかにあるものって、どうしたってごまかせないじゃないですか。
そういう意味で、むしろ外に見えているものよりも、むき出しだなぁと思うのです。
 
 
ちなみに、これは私がもう1年半以上前のことですが、私のなかに、とても強くインプットされていました。
 
そして、つい先日。
このときのことを彷彿とさせるような印象的な言葉が。
 
ここ最近、本道さんはメディアの取材を受けることが多く、そこで何度か、こんな質問をされました。
「本道さんが最近おすすめするお店はどこですか?このお店は美味しい! と思ったレストランがあれば教えてください。」
 
それに対してこう答えたのです。
 
「うーん。最近は美味しいものってあまり求めていなくって。
つくり手が愛をこめてつくってくれているか。結局それだけなんですよねぇ。」
 
だから、パッと見あまりキレイじゃない、家族経営でやっているような、小さなお店にふらっと入っちゃうことが多い、とのことでした。
 
この言葉を聞いたときに私は、『そんなふうに見ていたんだ!』という驚きとともに、いろいろなことが腑に落ちたような気がしました。
 
 
そう、結局いつだって本道さんが見ているのは、その人のなかにあるもの。
外側に持っているものは、あくまでオプション的な飾りにしかならなくて、本当の価値というのは、一人ひとりの内側にある。
 
そしてそれは、食べ物による部分も、大きいということなのでしょう。
なぜなら、本道さんがいつも言うとおり、「人は食べたものでできていて、今食べるものが私たちの未来を創る」から。
 
世界中でさまざまな料理を食べ尽くし、世界中で数えきれないほどの料理をつくってきた本道さんが、たどりついた結論だからこそ、重みがあるなぁと思うのです。
 
つくる側として、愛をこめているか。食べる側として、感謝の気持ちを持っているか。
食べ物を目の前にしたときの一瞬一瞬のチョイスが、その人自身をつくっている。
 
本道さんは、それを「愛」と表現し、「その人のなかに、どれだけの愛があるか」という視点で捉えているんだなぁとわかったのです。
 
つくり手としての本道さんは、その都度変わるお客様の内側を一瞬で感じ、その人が料理を食べたときに、少しでも多くの愛で満たされるように、気持ちをこめて料理をつくる。
食べるときには、気持ちのこもった優しい料理を食べる。
 
こういうことを繰り返した結果、すべての人が、一つの指標で見えるようになり「人はみんな同じ」という言葉へとつながったのでしょう。
 
これら一連の話から、本道さんの目が捉えているものは、本当にはかり知れないなぁと、改めて思ったわけです。
 
 
と言ったって、時々「とっても甘いパンが食べたーい!」と言って、ものすごい笑顔で食べているときもありますけどね。
それもまた本道さんの魅力だなぁと思います。
 
せっかく体に入れるなら、どんなものでも思いきり喜んで、とびきりの笑顔で食べることで、その思いが体のなかに、大切に蓄積されていくでしょうから。
 
 
本道さんが見ているもの。
シンプルだからこそ、ごまかしが一切きかないもの。でも、無理してかっこつけたり、気負ったりする必要もないもの。
 
「人はみんな同じ」であるとは、ものすごく身が引き締まるような、でも肩の力がふわっと抜けるような。ちょっと不思議な感覚です。
 
今日はどんなものを食べようかなー。

 
PH_amano_v17_1-20150416UP.jpg黄色と紫色のさつまいもの茶巾
 

PH_amano_v17_2-20150416UP.jpgシンガポールのヘチマ科の野菜を煮ているところ

Writer Profile

天野麻里江
天野麻里江Marie Amano

本道佳子さんマネージャー
大学卒業後、システムエンジニアとしてIT企業に入社。法務部で契約書作成にも携わる。2011年3月、本道さんと出会って価値観が大きく変わる。2013年夏に退社。本道さんマネージャーと国境なき料理団事務局を担当し、皆様に本道さんの魅力を届けるべく活動中。
小さい頃から食べることが大好きで「おいしい食べ物は人を笑顔にする」と信じている。

本道佳子(ほんどう・よしこ)
NPO法人・国境なき料理団 代表理事。高校卒業後、単身で渡ったアメリカで世界中の料理に触れる。帰国後は野菜料理のシェフとなり、『食で世界が平和になったら』の想いを胸に、病院とのコラボ「最後の晩餐」など様々な活動を続ける。その人柄と大胆でカラフルな野菜料理は評判となり、2014年「湯島食堂」閉店後も、世界の各地で愛あるご飯をお届け中。

Back Number

その他のバックナンバー

ページトップ