楽しみ、楽しませ、ほんのちょっと楽になる

Vol.10本道佳子マネージャー日記

Vol.10本道佳子マネージャー日記 まさかそれを使うのですか?

2015.02.26

前回のvol.09で、「高校生のお料理教室 in 神戸」のことを書きました。
 
そのお料理教室が始まる直前。
本道さんは、料理をするときには必ず持ち歩いている、大切なお醤油を忘れてきたことに気が付きました。
 
驚いたスタッフの方々が「すぐ近くにスーパーがあるので、お醤油を買えますよ」と、声をかけてくださいます。
 
もちろんその方法もあるのですが、私の頭には「あのお醤油に代わるものは手に入らないかも・・・・・・」という不安がよぎります。
 
温泉地熱のエネルギーを使ってつくられたという、そのたまり醤油。
深いコクがありながら決して濃すぎず、角がない柔らかな甘みと旨みで、素材の味を消すどころか、むしろ丁寧に引き出して、ひとかけするだけで、ぐっと美味しい料理へ変化させる。
 
そのお醤油で、ひじきの味付けをしようと考えていたのです。
これがまた、私のひじきへの概念を覆してくれた、新月と満月の時にしか収穫しないというひじき。
 
「このひじきに、あのお醤油がないとは・・・・・・」と、少し動揺しながらも、「スーパーで買ってきましょうか?」と、声をかける私。
 
そんな私の動揺を気にすることなく、本道さんは「大丈夫。ちょっと代わりになるものを探してみますー。」と言いながら、荷物がたくさん詰まった大きなスーツケースをガサゴソと探します。
 
しばらくして、もう一度聞いてみたところ。
「代わりになるものがあったんですよー。よかった。これですー。」そう言って、私の目の前に、ある物を差し出しました。
 
何だったと思います?
 
「グラノーラ」 ですよ。
 
あの、牛乳やヨーグルトをかけて、ちょっとおしゃれな朝ごはんを演出しちゃうグラノーラ。
 
私もそろそろ本道さんの意外性には慣れてきたと思っていましたが、さすがにこれは驚きました。芸人さんのように「いやいやいや」と突っ込みそうでしたよ、本当に。
 
普通に考えると、「お醤油の代わり」って、塩気の強い何かだと思うじゃないですか。ところが出てきたのは、味も形状もまったく異なるグラノーラ。そもそも調味料ではないですしね。
 
そんな私の驚きを、やっぱり気にすることもなく、本道さんはいつもどおり、魔法のように料理を仕上げます。
 
真っ黒なひじきと、切干大根、赤と黄色のパプリカを和えたもの。
味付けは、塩とホワイトバルサミコ酢、アクセントにしょうがのせん切りを少々。そして、グラノーラ。
 
ワクワク半分、ハラハラ半分で味見してみました。
 
 
食べた瞬間の衝撃にも近い驚き。忘れません。
 
ホワイトバルサミコ酢の優しい酸味に加わった、グラノーラの塩気と甘み。これが口の中で、見事に味のバランスが整えてくれるのです。
 
もうひとつ特筆すべきは、食感のグラデーションの素晴らしさ。
 
風味のあるひじきの滑らかな口当たりに、シャキシャキとしたパプリカ、コリコリとした歯ごたえのある切干大根。
そこに加わるグラノーラのサクサク感。
 
このグラノーラ、通常イメージされるものよりも少し丸みを帯びていて、食感がサクサクしているのです。
「カリっ」でもなく「ムギュ」でもなく、「サクッ サクッ」。
 
ひじきはひじきで、柔らかいながらも、ほんのわずかにシャッキリとした歯ごたえが残るので、すべての食材が、同じ距離感でグラデーションを奏でるのです。並べるならば、こんなふうに。
 
ひじき ー パプリカ ー グラノーラ ー 切干大根
 
足りないものも余計なものも何ひとつない。そう確信できるほど、完璧に仕上がっていました。
 
こういう瞬間を目の当たりにしちゃうと、やっぱり思うんですよね。『自分はまだまだ固定概念にとらわれているなぁ』と。
 
この発想はきっと、本道さんが昔からやっているという妄想遊びの賜物だと思うのです。
 
小さな頃から頭の中で『これとこれを合わすとどんな味になるかなぁ。もう少しつぶしたほうが味が、なじむかなぁ。』と、手を変え品を変え組み合わせてきたからこそ、常識にはとらわれない自由な発想が、次々と湧いてくるのでしょう。
 
「まさかそれを使うのですか?」シリーズは、他にもまだまだあって。
 
ついこの間は、ものすごく深いコクと甘みがあるお味噌汁だなぁと思ったら、漬物がつかっていた味噌を溶いて、お味噌汁にしていたり。
「カナッペをつくりますー」と言っていたと思ったら、出汁用昆布を素揚げして、フランスパンの代わりにしていたり。
 
こういう発想に触れる度に、私はまだまだ小さな常識の世界に留まっているなぁと、しみじみ思います。
自由に組み合わせて、味のハーモニーやグラデーションを楽しめるのが手料理の醍醐味。それを楽しみながら、世界を大きく広げていこうと、改めてキッチンの前で背筋を伸ばしたのでした。
 
 
そうそう。お知らせですが、昨日2/25にマガジンハウスから発売された雑誌・クロワッサンに、本道さんのお料理が掲載されています。
出汁用昆布のカナッペをはじめとした春野菜料理10品が載っていますので、ご興味があれば読んでみてくださいね。


PH_amano_v10_1-20150226UP.jpgグラノーラを使ったひじき。本道さんがつくったものを撮り忘れたので、再現しました。ホワイトバルサミコ酢がなかったので、普通のバルサミコ酢で


PH_amano_v10_2-20150226UP.jpg本道さんがスーツケースから発見した実際のグラノーラ。

Writer Profile

天野麻里江
天野麻里江Marie Amano

本道佳子さんマネージャー
大学卒業後、システムエンジニアとしてIT企業に入社。法務部で契約書作成にも携わる。2011年3月、本道さんと出会って価値観が大きく変わる。2013年夏に退社。本道さんマネージャーと国境なき料理団事務局を担当し、皆様に本道さんの魅力を届けるべく活動中。
小さい頃から食べることが大好きで「おいしい食べ物は人を笑顔にする」と信じている。

本道佳子(ほんどう・よしこ)
NPO法人・国境なき料理団 代表理事。高校卒業後、単身で渡ったアメリカで世界中の料理に触れる。帰国後は野菜料理のシェフとなり、『食で世界が平和になったら』の想いを胸に、病院とのコラボ「最後の晩餐」など様々な活動を続ける。その人柄と大胆でカラフルな野菜料理は評判となり、2014年「湯島食堂」閉店後も、世界の各地で愛あるご飯をお届け中。

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