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Vol 3. ありのまま、ブータン

Vol 3. ありのまま、ブータン アプ・ボクトと樽の物語①:家族のために

2015.07.31

さて、お待たせいたしました。
今回は、本連載のもうひとりの登場人物、アプ・ボクト(Ap Bokto)をご紹介します。
 
昨年2014年、ブータンで初めての3Dアニメーション映画、『アプ・ボクトと樽の物語』が、晴れて公開されました。アプ・ボクトは、その物語の主人公。
「アプ(Ap)」は、ブータンの国語、ゾンカ語で「おじさん」を意味しますので、映画タイトルを日本風にすると、“ボクトおじさんの大冒険”といったところでしょうか。
 
映画の生みの親でもある、Athang社のCEO、カルマ・デンドゥプ氏は、
「3Dアニメーションという最新技術を用いて、敢えてブータンの伝統的なライフスタイルを表現することで、そのユニークさを世界に伝えると共に、ブータンの若い世代にも、ブータンの伝統の魅力を再発見してもらいたかった。」
と語っています。
 
この映画は、カルマ氏の予想をはるかに超え、ブータン国内で大ヒット。
2014年のブータン映画大賞も受賞しました。
特に、小学生以下の子どもたちの間では人気が高く、映画公開中に何回も映画館に足を運んだ家族もいたようです。
百聞は一見に如かず、まずはこちらの予告編をご覧になってみてください。

 
いかがでしたか(笑)?
この、何ともいえずぎこちない動き、素朴さ、手作り感が、いかにもブータンらしく、私は気がついたらアプ・ボクトの大ファンになっていました。
映像もストーリーも、まだまだ荒削りではあるのですが、どこか光るものを感じるのは、私だけではないはず。
ちなみに、アプ・ボクトの声は、プルバ・ティンレイという、ブータンで最も人気のコメディアンが演じています。
 
「日本の『ハタラク』というWEBマガジンで、是非アプ・ボクトを通じてブータンの魅力を日本の皆さんに伝えたい!」
と、Athang社のカルマ氏に懇願したところ、海外でアプ・ボクトを本格的にPRするのは初めてということで、ありがたいことに快諾してもらえました。
そして何と、映画のストーリーでもある『アプ・ボクトと樽の物語』の要約版を、『ハタラク』でご紹介できることになりました!
そういう訳で、まずはアプ・ボクトについて皆さんに知っていただくためにも、今日から数回にわたり、ストーリーをお話していきたいと思います。
 
 
アプ・ボクトと樽の物語①:家族のために

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ここは、ブータンの深い山奥にある小さな村。
アプ・ボクトは、二人の子どもと奥さん、奥さんの母親とで、静かに暮らしています。


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アプ・ボクトは、せっせと薪に火をくべ、
やっと、子ども達に食べさせる夕飯の準備ができました。
今日の夕飯は、おかゆです。


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子ども達は、がっかりして言いました。
「また今日もおかゆだけ?お米とか、野菜とか、お肉とか、もっと色んなものが食べたいよ。」
 

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アプ・ボクトの奥さんは言いました。
「食べさせてあげたいけれど、なかなかそうもいかないのよ。昨晩、野生の動物達が私たちの畑を荒らして、野菜もとうもろこしも、全部食べられてしまったよ。」


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アプ・ボクトは、家族を集めていいました。
「皆にこんな辛い思いをさせて済まない。明日、俺は遠くのお寺に行って、年に一度のプジャ(祈祷式)に参加してくる。そこに集まる人たちから、食糧を調達してくるんだ。」
家族は一同賛成し、アプ・ボクトは翌朝早くに、お寺に向けて出発することになりました。


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そして、家族は新しい朝を迎えました。
アプ・ボクト出発の日です。
 
・・・・・・これは、ひと昔前まで、ブータンの地方の村では普通に見られた光景です。
果たして、アプ・ボクトは、遠くのお寺まで無事にたどり着くことができるのでしょうか?
つづきは、vol.4をお楽しみに。

Writer Profile

松尾 茜
松尾 茜Akane Matsuo

日本の大手旅行会社に5年間勤務した後、2012年よりブータン王国の首都ティンプー在住。ブータンの持続可能な観光開発事業に携わっている。地域固有の自然や文化、昔ながらの人々の生活を守りながら、ゆるやかに交流人口を増やし、地域経済を、訪れた人の心身を、着実に豊かにしていくような観光を、世界各地で促進していくことがライフワーク。

Ap Bokto
Ap Boktoアプ・ボクト

ブータン王国の田舎町出身。二児の熱血お父さん。農家で、家族と家畜と共に、昔ながらの伝統的な生活を営んでいる。敬虔な仏教徒でもある。

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